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09.07.05 ボルト [本や映画、音]

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「ボルト」公式サイト
日本公開は8月1日から。

最初に言っとくよ。
もしもこの映画をまっさらなキモチで見たいと思ってるなら、この先は映画を見てからにしてね。
ネタバレ満載。さらに勝手な解釈付き。
子どもの目線で「ワンちゃんの大冒険を見たいの!」って人は、このエントリーは飛ばすべき。

けど。
あからさますぎない上出来なデートムービーを探してる人たちにはオススメ。
「ワンちゃんの大冒険を見たいの!」って言って彼氏を誘い出すのもアリ。
(ただし、相手にはこのエントリーは読ませないこと)



















これくらい空ければいいかな?






ストーリーはこうだよ。
ボルトはスーパードッグ。超高速で走り、障害物も華麗に飛び越え、目から光線を放ち、一声吠えるだけでどんな敵でも吹き飛ばす。
飼い主のペニーはハイテク装備を使いこなすガジェット少女。装備を発明したパパは悪の組織にさらわれちゃった。
そのパパを助け出すために、ボルトとペニーは悪の組織と戦うのだ!
ってのがテレビドラマ『ボルト』のあらすじ。すべてはスタジオの中の話。
ボルトに迫真の演技をさせるため、大人たちはボルトをスタジオから出さないようにして、ドラマを現実だと思い込ませてる。
ボルトにしてみれば、それを疑う要素がない。
自分は無敵のスーパードッグ。次の戦いでは必ず悪の組織をやっつけてやると思ってる。
大好きなペニーのために!

ところが。
ある日、ちょっとしたアクシデントでボルトはスタジオのあるアメリカ西海岸から、東海岸へ運ばれる。
ボルト、超エキサイト。
いったいこれはどうしたことだ! さては悪の組織のたくらみだな!!

偶然出会った猫のミトンズと話してるうちに、ボルトは気づき始める。
どうやらすべてはドラマ。作られた世界だった。自分はただの犬だ。
シニカルなミトンズは、純粋に信じていたボルトを笑い飛ばす。
それでもボルトはペニーに会いたい。
とにかくペニーに会いに行くんだ!

こうしてアメリカ大陸を横断する、ボルトの旅が始まる。
頼りはぬりえ(だったかな?)のアメリカ地図。
道連れは猫のミトンズと、テレビオタクのハムスター・ライノ。
ライノはテレビばっかり見てるから、ボルトがスーパードッグだって信じてる。

途中、ミトンズはボルトにさとす。
会いに行ってもムダだと思うよ。だってあれはドラマ。あの子も女優。すべてはウソ、ツクリモノ。
きっといまごろ、あんたのことなんて忘れてるよ。
それを聞いて、すっかり落ち込むボルト。
ペニーのために全力で戦った日々が作り物だったとしても、ペニーの笑顔も優しさもすべて作り物なんだろうか?
あれは全部うそだったんだろうか?
たとえそうだとしても、もう一度ペニーに会いたい。

3匹はいろんな苦労を重ねて西海岸へ。
ついに撮影スタジオへと辿りついたボルトは、ペニーに再会することになる!

って、ここでお話しを終わらせるようなボンクラ脚本家には用はないよ。
そんな薄っぺらいお話しなら見る価値なし!

心に残る映画ってのはたいてい、何かを代弁してる。

ボルトを見て思ったのは、これは「かわいいワンちゃんが苦労して飼い主のところに戻る冒険の物語」なんかじゃない。
これは少年が自立していく通過儀礼のお話しなんだよ。

ボルトは自分のことをスーパードッグだと思ってた。
何でもできるワンダーボーイ。自信もあるし、今まで一度だって自分の可能性を疑ったコトはない。
ところが一歩外に出てみたら、自分は無力で無能な存在。
1人じゃ何もできない、ただの世間知らずだった。

これは少年たちが社会に出て最初に感じる挫折だよね。
希望があった。夢もあった。できなんてみじんも思わない。
だけどその夢や希望は、小さな世界の中だけで通用する、自分本位なモノだった。
こうして徹底的に打ちのめされて、アイデンテティーを失う。

さらに、おまえが夢見ていたのはくだらない理想論だと世間ズレした誰かにささやかれる。
おまえには何もない。金も地位もない。身の程を知れ。ムダな背伸びは止めろ。
そうやって自信を打ち砕かれた後に、やさしくささやかれるよね。
だからまぁ、届くはずもない夢を見るのはやめよう。
楽にやろうよ。
ほら、こうすれば簡単さ。
もがくよりもここで流れに乗ってる方がイージーじゃない?って。

そこで止まるか。あるいは最初の夢を追いかけるか。
情熱と妥協。夢と現実。
大人になるってのは、そのどっちかを選ぶこと。

ボルトは情熱で夢を選んだ。そうして大陸を横断したんだけどね。

ちなみに。
いい映画には、映画を映画として楽しめるような仕掛けがしてある。
感情移入も映画の大事な要素の一つだよね。
ボルトに感情移入してもらうためには、ボルトはみんなのキモチを受け止められる存在じゃないといけない。

この映画は、どれだけボルトに感情移入できるかがポイントになるよ。
だからペニーみたいな具体的なキャラクター、つまり人間じゃあダメなんだよね。
ボルトが人間だったら、それは「他人」の話だからね。
ミトンズやライノが動物なのに人間の言葉を喋るのも同じ。
人ではない外見で、中身は理解しやすい同族。
それは感情移入をしてもらうために必要な舞台装置なんだと思う。
だから、ボルトは動物だった。ってか、動物がいちばんイージー。しかも人間に近いところにいる動物。
ってわけで、犬ね。あと猫、小動物。鳥なんかも悪くない。全部出てくるな、考えてみたら。

で、ボルトはオスの犬だ。
主人公が男性なんじゃなくて、感情移入の対象が男性なんだよね。
だからこの映画が男性に向けて作られてるってコトがよく分かる。
しかも通過儀礼を経てきたことに共感してくれる人たち。
つまり、大人の男の人に向けて作られたお話しなんだと思うよ。
子どもは普通に楽しめる。だけどそれ以上に、パパもじゅうぶん感動できる。
あの映画、意外に良かったぜ。大人同士でそういう評判になれば大成功だよね。
(あるいは映画会社の重役たちをターゲットにしたか、だね)


ストーリーに戻るよ。
スタジオに戻ってみたら、そこにはペニーがいた。嬉しくて駆け出しそうになるボルト!
けれど、ペニーは自分ではない別のボルトを抱きしめていた。
ガーン !!!

この脚本家は分かってる。絶対にストーリーはこうじゃないといけない。
ここはもう一度、ボルトにはどん底まで落ちてもらわないといけない。
徹底的にたたきのめされて、立ち上げれないほどに。
なぜなら。
本当の通過儀礼は大陸を旅してきたコトじゃなくて、大事な人にアイデンテティーを否定されて尚、どうするのか、ってことなんだよ。
それが早とちりの誤解だったとしてもね。

ボルトは肩を落としてスタジオを去ろうとする。
ミトンズの言ったとおりだった。もうペニーは自分を必要としてない。バカだった。長い旅をしてきたけれど、すべて自分のうぬぼれだった。ペニーが自分を待ってくれてると思っていたことが間違いだった。ああ、僕はなんて思い上がった犬なんだ。あのかわいいペニーが、僕みたいな犬をいつまでも待っててくれるわけないじゃないか。

たいていの男の子が失恋した時に味わう、あの感じ。
いちばん自分を認めて欲しいと思ってる人に、存在を否定される感覚。
すべてを失い、自信をなくし、前に進むチカラがゼロになる。
誰もが知ってる辛い辛い時期だ。
でも観客は知ってる。ボルト、そのボルトは偽物だ。ただの代役だ。ペニーは君を待ってる。いじけて誤解して落ち込んでる場合じゃない。勇気を出してペニーに会いに行くんだよ! そしてペニーのキモチを確かめるんだ!!
大人たちだからこそ、おなじ間違いをしてきた人たちだからこそ、ボルトにエールを送ることができるんだよ。
さぁボルト、走れ!

物語は一気に伏線を回収し始めるよ。
どうしてミトンズはあんなに物知りで世間のことを見下していたんだろう。
ライノの思い込んだら一直線な性格はうざいだけじゃなかった。
終始、ボルトに会いたがってたペニーの真っ直ぐな想い。
そして、ペニーに会いたいっていうキモチを大事にして、最後まで自分に嘘をつかなかったボルトの心根の美しさ。

すべてが混じり合って、素晴らしいエンディングへと加速していくよ。

男の子たちはこの映画を見ながら、勇気のなかったあの日の自分や、確かめもせずに信じ込んでしまった誤解を後悔して、となりにいる大切な人の手を握ると思う。
女の子たちは待っていることの大切さを知りながら、ひたむきなキモチを持ち続けることの意味を知ると思う。

残念なことに僕は飛行機の中で見たから、隣はカタコトの日本語を話すアメリカ人のおっさんだったけど。

子ども向けの冒険ワンちゃんストーリーだって思ってたら大間違い。
「ボルト」は大人が失った日々を慈しみ、今を大切にするきっかけをくれる美しいストーリーだよ。
少年はこうやって大人になるし、大切なものを手に入れる。
友も大事な人も、すべて力を尽くしたからこそ、ここにある。
その感動を共有すれば、デート後半戦で何かが背中を押してくれると思うな。


星の数? それ、聞いちゃう?

★★★★★

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