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11.10.24 【bigtime「The HOME」についてのものすごく長い感想文】 [スノーボード]

基本的に。
DVDは気に入ったモノをバンバン買う、なんてできないから。
毎年、どのDVDを買うかは真剣に吟味するよね。
僕の場合、シーズン中に買うのは3枚って決めてる。主に予算的な理由から。
けど3枚目はシーズン中に現れる不意打ち的DVD、あるいはクチコミがすっげぇいいのにに備えてとっておくから、実質シーズン前に買うのは2枚だ。でも今年は「The Art of Flight」があるからなぁ。本当にシーズン前に買えるのは一枚だけなんだよね。
その一枚はbigtimeの「The HOME」にしたよ。

thehome-s.jpeg
買って1ヶ月半。bigtimeの「The HOME」は都合6回見た。

正直に言うけど。
最初は3・11のことを考えずには見れなかった。パウダーを見れば、この風景はあれより前だよなと思い、この山はもう二度と帰ってこないのかと考えて胸が締め付けられた。
打ち明けてしまえば「The HOME」を1枚目のDVDとして買った動機の中に、東北への募金っていうキモチがなかったとは言えない。
それでも自分の中のスノーボーダー的第六感の声を聞いて一発で判断した。よし、まずはこれから。今シーズン最初のDVDはこれだ、と。
理由はティーザーだったんだけど。

総じて。
今の日本のスノーボードDVDはティーザーが酷い。もうほんとうにドイヒーだ。
購入前のムービーなんてティーザーを見る以外判断のしようがないのに。本編がどういう意図で作られて、何を狙って、どういう見せ場があるのかっていう映画予告編的な作品紹介、って部分がてんでなってない。
実際問題、多くのティーザーは本編の中から良さげなカットを抜き出して集めただけのモノなんだよ。それ、総集編じゃん。
本編の前に総集編見せるなんて、順番が逆だよね。それ見たらもう、本編見なくていいし。
だいたいDVDは本と違って立ち読み的な中身チェックができないでしょ。
そう言うと
「だからティーザーがあるんでしょ」って言われるんだけど。
あのね。
本に例えると、だね。
どんなもんかな〜って自分でページをめくって見るのと、目の前で勝手に本をめくられて「中身見ただろ」って言われるのはまったく違うでしょ。
ティーザーは立ち読み的要素ゼロなんだよ。
だからこそ、本編の内容を想像させてくれて、期待させてくれないといけないのに。
そう、僕らは期待したい。
DVD本編の内容は買うまで分からない。中身の分からないDVDを買うのは賭(かけ)なんだよ。で、同じ賭をするならイケそうだっていう空気に乗りたいじゃん。このムービーはおもしろそうだって感触がほしいじゃん。
それが期待感。
やたら長くてもう本編買わなくていいやっていうティーザーとか、笑顔とオフショットばっかりで滑りが頼りないティーザーとか、登場ライダーを均等に出そうとして山場がなくなってるティーザーとか。そんなティーザーじゃあ心は動かない。サイフは開けられない。

ティーザーがダメな理由は分かってる。
本編を作る時に訴えたいと思うようなテーマがないからだ。ライダーの滑りを撮り重ねただけ。特別にアピールすることがないんだから、ティーザーも総集編的にする以外に作りようがない。
海外のティーザーの中にはものすごく伝わるモノがあるけど、そういうムービーにはたいていテーマっつうか企画性がある。辺境だったりナイトショットばっかりだったり限界を超える、だったりね。
雑誌でもそうだけど、企画ってのは制限することから始まる。
こういう人たちが、これをやる!っていうシバリは企画性になる。
誰かが何かすごいことをやろうとしてる、って運まかせのフリースタイルは企画にならない。
企画性やテーマがあればアピールのポイントがハッキリして、自動的にそこがティーザーの核になるんだけどね。
結局ティーザーがつまらないムービーってのは、テーマのないぼやっとしたムービーなんじゃないだろうか。滑ってます!っていうライダーの熱気だけに頼った、抑揚のないスノーボードシーンの連続になりがちだよね。
それじゃあ売り物にはなりにくい。
つまりティーザーがダメなムービーは、ダメムービーである可能性が高い。
だからこそ、ティーザーがいいとものすごく期待しちゃうのだ。


「The HOME」はティーザーが良かった。
モノクロームな処理とアナログなテイストの画面に、アコースティックな音楽。そこに映し出される人の笑顔と風景。
それが途中から鮮やかなカラーに変わっていく。
細かくフォーカスしたスナップショットと、引きで捕らえたライディングの対比は見てて気持ちがいい。
何よりもテンポのいいカットとメロウな音楽がこのティーザーの勝因だ。
音と映像が一体化して、なんだかとっても楽しそうだ。
全編に漂うムリをしてない感が、すっと身体に染みこんでくる。
あと、パークの映像がない。
これはデカい。つまりこのムービーは「すごいでしょ!」が太字じゃないんだよ。
単純にスノーボード、大好きなんだな〜って共感できた。
正体は分からないけど、ちゃんと訴えてくるモノがある。
ティーザーを見てDVDを買う気になったのは、ホントに久しぶりだったよ。

前置きが長くなったね。
さぁ、んじゃ中身のハナシをしよう。
僕はティーザーに騙されたんだろうか?
bigtimeは東北のスノーボードムービーチームで、その「東北」という言葉の向こう側には様々な想いが乗るけれど、それをあえて押しのけても見るべき作品なのか?
ぶっちゃけ、スノーボードムービーとしての「The HOME」はどうなんだ?と。


その「The HOME」は10のパートからできてる。

■opening
■Takahashi Masamitsu PART
■Asuka Get'z Kazuma Qkan Matsuda PART
■Takahito Yosuke Kyosuke PART
■Hiromi Yuki Chizu PART
■Matsuura Hiroki PART
■Teranishi Masaki PART
■Sugimoto Yukihito PART
■Haru Yama PART
■credit

だ。
最初からいくよ。

■opening
ティーザーの雰囲気そのままに、っていうかティーザーそのまんまから始まる。
見慣れた期待通りの映像と聞き覚えのある曲で作られたオープニングは、一発で作品に入り込める。
ティーザーで見た映像が、別編集で細かく現れては消えていく。
それでもラップして遊んでるところは、ティーザーと同じタイミングだったりするけどね。
見る側の期待感をちゃんと受け止めてくれる構成は好感が持てる。
ワクワクしてくるよ。

■Takahashi Masamitsu(高橋正充) PART
パウダーの映像。思う存分、その柔らかさにウットリしたいところ。
けど気持ちよさそう!と思うと同時に、この山が今はもう前とは違ってしまったのか、という寂しさも感じさせる。
これは確認してないから分からないけど。
地形の雰囲気はパートを通してよく似てるのに、雪の付き方が違うように見えるところがある。
だとしたら、同じ山で何度か撮影してるんじゃないかな。
しかも冬の雪と春の雪のように見えるところがある。
もしも、それが3・11を挟んでの撮影だとしたら。
このパートはすべてを語ってるかもしれない。

■Asuka(伊藤明日香) Get'z Kazuma Qkan Matsuda(松田ひろあき) PART
山もあるけど、ストリートもあるよって主張かな。
なんせ元気のいいライダーたちがガッツンガッツン攻めてる。
Get'z(ゲッツ)とは春先にちょこっとだけセッションしたけど、めちゃくちゃ「ケミカル」なライダーだった。
「ケミカル」ってのは知り合いのアメリカ人たちがよく使ってる言葉で。
「恐れを知らずに攻めまくる。生まれた時から恐怖心ないんじゃないの?」っていう感じ。
もちろん褒め言葉。
逆にAsuka(伊藤明日香)なんかは動きがしなやかで「ナチュラル」な感じ。
Matsuda(松田ひろあき)の三次元的な動きは見ていて爽快。やっぱ動きはいいね〜

■Takahito(石山崇人) Yosuke(赤川陽輔) Kyosuke(渡辺恭介) PART
秋田クルーの映像は独特のムードを出してる。柔らかくて暖かみのある音と映像は、そこにあるアイテムで上手にあそぶ雰囲気によくあってる。
ハンドレール、ナチュラル、オブスタクル。
大きな山に行かなくても、スノーボードは楽しいよね。
雪の降った日曜日はこうやって遊びたいなって思わせるよ。

■Hiromi(高橋博美) Yuki(降旗由紀) Chizu(加藤ちず) PART
ガールズパートだ。
僕が男友達として付き合ってる降旗由紀がガッチリ組んでるクルーだから、撮影場所選びの選球眼は間違いない。
いい場所でやってる。
あと、個人の能力も出てるよね。
Hiromiのスケートライクな力強いオーリーの引き寄せとか、Yukiの地形を気にしないストンプ能力とか。
特にHiromiのストリートはすごい。あれだけやられながら、よくあれだけの画を撮ったと思う。
もっとやれる連中だから、時間があればもっともっとやれたはずだ。
けど、今年はやりたくてもできない事情があった。
そのあたりのことは一切語ってない。
言い訳しないってことなんだと思う。
そういう余計な言い訳をしないHiromiも、男として付き合っていける数少ない女友達の1人。

■Matsuura Hiroki(松浦広樹) PART
ここからの3パートがクライマックスだ。
最初にマツ君の語りが入るんだけどね。そこでたぶん、グッと来る。
メロウなメロウな音楽をひっさげて、マツ君が不器用に語るんだけど。
「来年もまた、福島のいい山、いい雪で、最高の仲間たちと今年できなかった分、セッションできたら最高だね!」
って。
パートはナチュラルライド一色。白い雪と青い空。ハイスピードで滑って柔らかいスプレーを飛ばして、飛んで、回って。
スノーボードの楽しさがシンプルに詰まってる。
最初にグッと来たことなんか忘れて、キャッキャ言いながら見ちゃうから。
マツ君って、動きがちょっと独特で。グラブしてもターンしても、いい形のところで一瞬フォームがロックするんだよ。
そのあたりの見せ所を知ってるのか、ナチュラルにそうしちゃうのか。
僕はナチュラルだと思ってるんだけど、気持ちいい滑りを純粋に楽しめるパート。

■Teranishi Masaki(寺西正樹) PART
青い空、白い雪から一転してダークトーンへ。
ナチュラルから一転してストリートへ。
どんなにやられてもあきらめない。スノーボードは楽しいからやってるけど、楽しいだけでは続けてない。
楽しいことなら他にいくらでもあるけど、こんなに手応えのあるモノはそう多くはない。
多くを語る必要はないと思う。
映像がたくさんのことをささやきかける。
スノーボードらしくて、大好きなパート。

■Sugimoto Yukihito(杉本幸士) PART
大トリはbigtimeを率いるディレクター・ユッキーのパートだ。
とにかくフリーライディングでおせおせ。
手に持ったカメラだと分かりにくいけど、フロントとかめちゃくちゃ深いカーヴィングしてるからね。
この人やっぱりスノーボード上手いなぁって感心させられる。
で、ボソッと言うんだよね
「地元がいいね。雪もいいね」
東北発のスノーボードDVDだって知ってて、ここで泣かなかったらウソだ。
bigtimeだって被災したり手伝いに行ったり。一時は物資がなくて新潟まで生活物資の買い出しに来た。
そんな年だったのに、そのことには一切触れず。
ただただ東北が好きだ、東北の山が好きだ、っていうキモチを詰め込んだ。
そのことがハッキリ分かるセリフだよ。
山をそのまま滑って、飛んで、回って。
雪と遊んで、斜面で楽しんで。
ユッキーはパートを通じてフリーライディングし続ける。滑り続ける。
それがめちゃくちゃ楽しそうで、今この瞬間に雪が降ってないことがほんとうにじれったく感じる。
ナチュラルのジャンプもパウダーターンも、ひとつひとつが楽しそうで最高。

■Haru Yama PART
ユッキーパートからシームレスに春山パートへ。
最後の最後に僕らはものすごくシアワセなキモチになるよ。
bigtimeクルーは春の山へフリーライディングに出かける。
春雪のツリーの間を軽快に駆け抜けて、ギャップで飛んで、ナチュラルで落ちて。
最初から最後まで楽しそうなファンライドがずーーーーっと続く。
3・11を経て、いろいろあったけど、やっぱりこの人たちは東北で滑ってるんだよ。
そのことにとても勇気づけられる。
そしてここまで抱えてきた東北に対する感情は、僕の勝手な思い込みだってことに気づいた。
汚れた春の雪でラインを読みながら嬉しそうにするクルーの姿を見て、彼らが何のいいわけもしなかった理由が分かる。
それは、何も変わってないからだ。
細かいところはいろいろ大変だけど、大事なところは何も変わってない。
だからまぁ、今まで通りです。
オープニングからここまで、画面に詰まってたのは「東北が大好きだ」っていうキモチだった。
そのことに気づいて、とてもシアワセなキモチになれる。

■credit
エンドクレジットは5月の末に開催した「Bigsmile again」っていう、これまたナイスなイベントの様子。
映し出される人たちの笑顔や滑りを見てるだけで、本当にスノーボードしたくなるよ。
こんな地形をみんなで作って、みんなで滑ったらさぞかし楽しいだろうな。
それならここに来い、と。
オレたちのHOMEに来いと。
もしもラストのメッセージがそうなら、
「Come to TOHOKU」
だろうけど。
実際には別のひと言で終わる。
すべての立ち位置が切り替わって、もっともっと引いた目線の、懐の深い言葉になる。
すげぇ……って思ったよ。


結論を言うと。
僕はこのDVDが好きだ。
ムービーとしての「The HOME」は決して100点じゃないかもしれない。スノーボードDVDとして足りないところもたくさんあるだろう。ライダーのスキルだって、厳しいことを言おうと思えばいくらでも言えるだろうね。
けど、僕はこのDVDがめちゃくちゃに好きだ。
ここにはたくさんの人の「大好き」が詰まってる。
何かを「大好き」って言う人を見る時の、シアワセ感が詰まってる。

そりゃ、いろんなスノーボードの楽しみ方があるよ。だから大きな山を滑りたい時には北米に行ったり、手応えのあるパークを滑りたい時にはそういうゲレンデに行ったり、雪質が好きだからってニセコに行ったりするわけで。
スノーボードっていう行為だけを見たらいろんな滑り方がある。
bigtimeはスノーボードをスノーボードっていう行為だけに留めなかった。
エンドロールに記される
Location: TOHOKU
のクレジットがすべてだ。
東北、いいぞ。
ここはホントにいいところだぞ。
それがこのDVDのテーマなんだよ。

しかも。
それはたぶん、描こうと思って描いたテーマじゃない。
考えて、計算して編集したんじゃない。
それしか言いようのない感情に突き動かされたんだと思う。
だからその感情が、画面の端々に残像のように残ってる。
このムービーには、隠そうとして隠しきれない、愛情や哀しさや喜びや愛しさや、そういういろいろな感情が詰まって、もう溢れる寸前だ。
そして僕らは、その感情を共有できる。
地元がいい、ここが好きだ、この土地が好きだっていう想い。
滑ることが楽しいという想い。
大切な人や仲間がいるという嬉しさ。
それは誰もが感情移入して、誰もが分け合えるとてもベーシックな感覚だ。
bigtimeのクルーが東北を大事にしているキモチは、自分が大事にしている土地や家族にも重ねることができる。
みんなが想いを共にすることができる。
僕らはさらにスノーボードというツールや行為を通して、そういう大切な感情をもっと深く分け合える。
だからこそ「The HOME」はキモチいい。

何も変わってない。すべてはそのままだ。
山もいい、雪もいい。何もかもがいい。
地震や津波で大変なことになったところはあるけど、東北全体がダメになってるワケじゃない。
原発事故はいまだに収まってないけど、東北全部が危ないワケじゃない。
丁寧に考えることをせず、ザックリと東北でひとまとめにして「余計な」同情をかぶせることは外野の勝手なロマンチシズムなのだ。
ローカルたちはちゃんとHOMEで滑ってたよ。
変わってしまったことと変わらないこととを区別して滑ってたよ。
そこに気づいて、ラストメッセージがComeじゃない理由に思い当たって、3・11のことを考えずにこのムービーを楽しむために、僕は何回か見ないとダメだったんだけど。
感覚の尖った人なら、一発目からその視点で見てると思う。
(事実、平野ハジメっは初見でいろんなものを見切ってた。センスのいいヤツは、最初から臭いをかぎ取ってる)

ちなみに本編にはジブを除いてパークで撮った映像はまったく登場しない。
流行のジャンプも、目立つトリックもナシ。
今の時代にパーク映像なしでピュアにスノーボードの楽しさを表現する。
それを高いレベルでやり遂げてるだけでも、充分に見る価値のある意欲的なムービーだと思うよ。




「the HOME」
thehome-s.jpeg

  ■品番:cvsb1544
  ■時間:本編39分+ボーナス
  ■価格:2,730円
  ■画面サイズ:16:9
  ■JAN:4582235163744
  ■発売日:2011年09月10日
  ■制作: bigtime
  ■制作者:杉本幸士

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<参考ページ>
■Soundtrack of bigtime -The HOME-
iTune経由で購入可能な「The HOME」使用楽曲のリンク一覧。

■ユッキーの適当日記
bigtimeのディレクター・ユッキー(杉本幸士)のブログ


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