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10.06.20 「兵器の常識・非常識」 by 江畑謙介 [本や映画、音]





あれ? 表紙の画像がないね。んじゃ自前のやつを、っと。
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雑学好きなもんで、こういう
「新しいことを知れそうな本」って大好きなんだよね。
いわゆる兵器についての正しい解釈を「常識」として解説し、誤解されている「非常識」として指摘していく。
「知らんかった〜〜〜!」とか「マジ? そうなの??」
ってことがいっぱいあったよ。

この本は上巻で「陸軍」の装備と「海軍」の装備について書いてある。

「陸軍」の章では戦車や自走砲、カノン砲、地雷、機関銃、小銃なんていうのがテーマね。
で、たとえば戦車。
戦車は「どんな地形でも走れるボディに大砲を乗っけた戦闘車両」じゃないんだってね。
その目的は歩兵の支援。
歩兵を支援するために作った戦車は、防弾性能を考えて装甲を厚くしていく方向に進んでいったし、どんどん重くなるのは仕方なかった。
昔はもっぱら活動の場が野原だったから良かったのかもね。
けど、今では市街地での戦闘を考慮しないといけない状況になってきた。
んだけど、めっちゃ重い戦車だと舗装路が割れたり、橋が崩れたりするかもしれない。
戦車といえどもぐちゃぐちゃの不整地を走るより、舗装路を走った方がラクで速いのだ。
ってことになると近代では舗装を壊さない抑えた重量と、市街地の道路を有効に利用できるサイズを備えたコンパクトな戦車が必要になるだろうね。
そう考えたらこの前発表された「一〇式戦車」はかなり理にかなった設計になってるのかも。

陸自ハイテク戦車お披露目 “ヒトマル式”来年配備


個人的には「海軍」の装備がめっちゃ興味深かったよ。
たとえば「軍艦」と「戦艦」はよく混同して使われるけど本が書かれた1998年現在(うわ、12年も前か……)、世界に「戦艦」は一隻もないし、これからも造られないだろう、とかね。
(「軍艦」は軍に属している船のこと。「戦艦」は軍艦の一種で、でかい大砲を備えてる船、って感じ)
続いて巡洋艦とか駆逐艦とかフリゲート艦とかっていう船の種別の定義をしっかり説明。
それから船に航空機を積むメリット。さらには、回転翼機を積む場合と固定翼機を積む場合の違いなどなど。
その他にも洋上艦と潜水艦の特性、船から撃つミサイルの仕組みと揚陸艦のハナシ。
んでもって機雷や、僕の大好きな潜水艦の解説などなど。

去年だったか、自衛隊の護衛艦が関門海峡で貨物船とぶつかっちゃって、船首が大破してた。
あれを見て「自衛隊の船、もろい……」って思っちゃったんだけど。
実は現代の軍艦には装甲板なんてないし、むしろ軽く薄く作ってあるんだって。

なぜなら今や「戦艦」の時代じゃなくなったから。
洋上艦への攻撃は大砲の弾じゃなくて、ミサイルや魚雷が中心。
パワー絶大で、当たったら一撃なんだよね。だから当たったときのことを考えて装甲板を厚くするのは意味がない。
船が重くなって遅くなるしね。
それよりも、当たる前にミサイルは撃ち落とそう。あるいはレーダーやら赤外線やら音やらいろんな策を駆使してミサイルや魚雷の「照準装置」をジャマしよう。んで当たらないようにしよう、っていう考え方。

下巻は「空軍」の装備と「ミサイル」について。

空中偵察や空中給油、ステルス技術や戦闘機の種類などなど。
びっくりしたのは、偵察機ってのはとにかく数がたくさん必要なんだね。
攻撃する前はもちろん、攻撃した後も偵察して作戦の効果を検証しないといけないんだって。
で、必要があればもっかい攻撃、ってことになるらしい。あ〜〜、なんか納得って思った。
あと、輸送機はでかいのばっかりじゃだめで、滑走路の短い空港にも降りれるような小型のモノも必要なんだよ、とかね。
飛行機モノは端から端まで「ほぉ〜〜」って感心しっぱなし。

そんからさ、第二次大戦中にドイツが使ったV2は、正しく言うと「V2ロケット」じゃなくて「V2ミサイル」なんだって。
言葉の定義として「ロケット」に誘導装置、つまり目標にキッチリ当たるような軌道修正装置がついたものが「ミサイル」、ってことらしいけどね。
“んじゃ、どっかの国がロケットを打ち上げたら、それは即、爆弾を積んだミサイルに転用できるじゃん! 宇宙開発って、もろ軍事産業!?” ってことじゃないらしい。
まず燃料の問題が大変だったりするし。
抑止力や反撃用兵器としてミサイルを使おうとしたら、すぐに撃ち返せるクィックなレスポンスがマストでしょ。
だけど液体燃料で飛ぶミサイルだと、燃料の注入に時間がかかっちゃう。数時間とか。
それじゃあダメじゃん、ってことで、ロケット=ミサイルなんてのは誤解の典型、ってハナシがあったりね。

本の中ではミサイルが目標にうまく当たるために、いかに誘導していくかっていうことも詳しく説明されてるよ。
赤外線を使ったり、光学照準だったり、レーザーだったり。
考えられる限りいろいろ。
驚いたのはね、地上攻撃にレーダーは使えないってこと。
空を飛んでるミサイルからレーダー波を放つと、全部地面に当たって戻って来ちゃうからだって。言われて納得!
だからレーダー以外にいろんなことを考えて、なんとかミサイルを目標に当てるようにしてるわけ。
なんだか映画を見てても空対空ミサイルだとか、空対地ミサイルだとか、攻撃目標に合わせてミサイルをとっかえてて。
んなのいいじゃん、撃っちゃえば一緒でしょ!って思ってたけどね。
そこんとこちゃんとやんないと、ミサイルがそもそも目標に当たってくれないってことみたいね。
このへんの技術がかなり細かく書かれてる。
そのミサイルだって、結局は爆弾なんだけどね。
本体のうち、爆弾の部分って3〜5割くらい。あとは飛んだり、軌道修正したりする装置なんだよね。
お届けしたい荷物よりも、包みの方がはるかにデカイ、って感じだった。

写真もたくさん載ってるし、ひとつの話題が4ページくらいで短くまとめられててナイス。
上下刊とも、読み物としてもかなりおもしろいよ。

なんつうか、こういう軍事モノを読んでるとね。
「戦争」「攻撃」「作戦行動」って言葉も素直に読んでいってるし、「標的」「目標」なんて言葉にも違和感は感じない。
けど、その先に何が起こってるかを考えると、ちょっとアンタッチャブルな話題って言うか。
兵器のことなんて語っちゃいけないんじゃないかって気持ちになることがある。
だって「目標」や「標的」の中には人がいるんだよ。

だからって、そっから目を背けるのは違う気がする。
そりゃ世の中に武器なんてひとつもなくなるにこしたことはないよ。
けどね。
そんなお花畑な理想論を掲げるんじゃなくてね。
名前の印象だけで判断しちゃうような短絡的なことじゃなくて、名前が示してるものが何なのか、ってのを知っておくこともムダじゃないと思う。

たとえば僕はこんなことを思った。
イラク戦争の時に、日本の自衛隊がインド洋で補給活動を行ったよね。
当時、ニュースを聞いてるときには、僕は補給で燃料を注ぐってことに何の引っかかりもなかったんだけど。
この本を読んでたら「補給」の意味がよく分かったよ。
補給艦を持ってるっていうのは、遠くまで出かけていって活動する能力があるってこと。
逆に補給艦がないと陸の近くでしか活動できない。
海上自衛隊に補給艦があるっていうのは、それだけ海上自衛隊が長く海上にとどまって活動できる組織だってことを示してる。
それは「国際紛争を解決する手段」として活動するためじゃない。「救助」や「平和維持活動」のために長く海上に留まることができる、っていう意味だ。
そして、世界的に見て外洋で長く活動できる組織や海軍を持っている国は多くはない。
「外洋での補給活動」っていうのは、自衛隊が世界の中でも少ない、一人前の海上活動ができる組織だっていうことを示してたんだね。
そう思ったときに海上自衛隊に誇りを感じたけれど、同時に、初めて海上自衛隊っていう組織は僕が思ってる以上に大きくて力を持ってるんだなって実感した。


知識があれば、何かを考えることができる。
何気ない風景の中にある、もっと深い部分を感じ取れるかもしれない。
沖縄の基地問題や自衛隊のハナシをするときだって、「海兵隊」っていう言葉の意味やその行動内容、実弾演習の意味と価値、発着訓練がなぜ必要なのか、などなど。
きちんと用語や名称。そして実態を理解して報道に接すれば、いまそこで何が起きてるのか、意見を言っている人はどういう立場で何を目的に話しているのか、よりハッキリ分かると思う。

ものすごくシンプルに、おもしろそうだから読み始めたんだけど。
考えるためにはまず、情報が必要なんだな、って思った。
その意味で、おもしろくてためになる本だったよ。






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